【福祉から雇用応援事業】B型就労支援の現場から vol.2「就職を目指して開かれたAさんの世界」 (2016/1)

【福祉から雇用応援事業】B型就労支援の現場から vol.2「就職を目指して開かれたAさんの世界」 (2016/1)

京都府障害者「福祉から雇用」応援事業 支援事例レポートVol.
就労移行を目指し開かれたAさんの世界

(監修)特定非営利活動法人 京都ほっとはあとセンター

 知的障害のAさんは、支援を始めて3年目になります。Aさんは本事業でかかわって、支援期間の長い方のひとりです。

就労支援を開始して、とくに大きな課題が無ければ、たいてい1年以内に「就職実現!」となりますが、なにか課題が浮上するとそう簡単にはいきません。そのほとんどが就労支援のノウハウでは解決できない“生活訓練レベル”の課題だからです。

生活訓練は、本来就労継続支援事業所の役割ですが、個別支援計画で取りあげなかったことが、就労支援で問題化するケースは多々あります。Aさんの場合は、「場面緘黙(かんもく)」と呼ばれる症状がありました。

緘黙(かんもく)とは、人前にでると異常に緊張が高まり、目を合わすことも話すことも出来なくなる症状です。身体がカチンコチンに硬直し、うつむいて微動だにしません。  

そのうち顔が真っ赤になって、冷や汗が出たり、身体が屈折して真っすぐ立って歩くことすら出来なくなります。そんな緘黙(かんもく)と共に20数年生きてきたAさんが、就職を希望したのです。

さっそく事業所での支援を開始すると、面談が成立しないという状態が大きな壁として立ちはだかりました。なんとか就労支援機関につなげたとしても、就労支援を進めれば進めるほど、Aさんが緊張する場面も増えて行きました。

さまざまな経験を経ながら2年過ぎた今も、就職は実現していません。

でも初回面談で目を合わすことすら出来なかったAさんが、いまは就労支援機関の面談に通い、ひとりで企業実習に参加できるようになっています。就職を望んだからこそAさんの世界が広がり、自信に満ちたキラキラした表情をするようにもなりました。

また、そんなAさんに一番驚かされたのは、就職を望む意志の強さです。

支援の中で次々明らかになる課題と真摯に向き合い、目標に向けて努力する喜びを知ったからこそ得られた収穫です。施設に通所して7年、Aさんが、これほど前向きな意志を表現する機会は無かったようです。ひょっとして就労を目指していなければ、そんな機会は当分訪れなかったかも知れません。

人が困難な道に挑むことで得られる変化や成長を、改めて実感させられたケースです。

そして、そんなAさんを支え続ける担当職員の方の影響は、とてつもなく大きいものです。私たち「ほっとはあと」の就労支援メンバーは、そんな職員さんたちの陰になり日向になり、就労支援スキルを高めて頂くために応援し続けています。