草のたね

花を育てて人も育つ。
これも生業(なりわい)の一つ

長岡京市の事業所から車で約10分。標高300mの京都市西京区・大原野にある花卉(かき)生産温室で播種から出荷までを行っています。花苗、ハーブ、観葉植物など年間出荷量は18万ポット。花と緑あふれる広いハウスの中で、愛情を込めて丁寧に花を育てています。

 

広いハウスの中は、花と緑で埋め尽くされている

広い空間で、花と緑に埋もれて作業

大原野に豊かに広がる畑を抜け、山手に上っていくと三角屋根のハウス群が見えてきます。ここは1999年にできた花卉(かき)団地「花トピア大原野」。そのうちの2つのハウスで、「草のたね」のメンバーが働いています。ハウスの中は、隅から隅まで一面にびっしりと苗ポットが並んでいます。芽を出したばかりのもの、放射状に葉を広げているもの、赤や黄色、ピンクの花、花、花……。ポットが並ぶ作業台は可動式になっていて、台を少し押して動かし、隣の台との間にできるすき間に立って作業しています。

種をまいた苗床から、小さな芽をピンセットで一つずつ摘み、ポットに植え込む人。ポットに入れた土の表面を手のひらで押さえて均一にしている人。枯れたり落ちた花がらを取り除く人。皆さん、黙々と仕事に取り組んでいます。

「草のたね」代表の大山修さんは、「ここに来られているのは、狭い室内で同じメンバーと同じ作業を繰り返すのが苦手な人、ほかの人と距離を空けたい人、1人でコツコツやりたい人が多いですね。ずっと家にいた方が、変わった仕事だからやってみたいと通っている人もいます」と話してくれました。

苗箱から小さな芽をピンセットでつまんで、ポットに移植    ポットで育つバジルの苗

引継いで、ともに歩むノウフク

このハウスはもともと、花トピア設立からの生産者の一人である木本義勝さんが続けてきました。木本さんは現在72歳。15年近く奥様と二人で花作りに取り組んできましたが、4年前に縁あって「草のたね」のメンバーと一緒にやることに。

「社会適応訓練で来てくれていた男性が、3年経つと健常者と変わらないくらいに回復したことがあり、この仕事は障がいを持つ人にとって非常に良いのではないかと考えました」と木本さん。「草のたね」の前代表に相談し、利用者さんと一緒に取り組むことになりました。

「ハウスを保有して花を作るというのは他にないでしょうし、うちも非常に助かってます。ハウスを絶やすことなく続けていけるのもありがたい」。跡継ぎのない木本さんにとっては、ここまで続けてきた事業を絶やすのがもったいないという気持ちもあり、2016年10月に花トピアの木本さんから、草のたね合同会社に債権・債務を全面移行しました。

水、光は足りているか?、病気はしていないか?、生の大切さを学びます  ハイドロカルチャーは夏に人気の商品

草の種ほどある仕事

「草のたね」という名前は、「生業(なりわい)は草の種」(生計を立てる手段は草の種のようにいくらでもある)ということわざに由来するそうです。

「作業所や事業所といえば、内職やクッキー作りなどが多いのですが、こんな仕事も選択肢の一つになればいいなと思っています。利用者さんも人それぞれ。オールマイティーに仕事をこなせる人もいますが、花の仕事もいろいろあるので・・・」と大山さん。種まき、ポット洗い、機械による土入れ、手作業で土詰め、鉢上げ(苗床から鉢への植え替え)、花のピンチ(切り戻し)、スペーシング(徒長(とちょう)を防ぐために広げる)、花がら摘み、出荷作業などたくさんあります。野菜を作っている事業所(亀岡市の「たのしくはたらく」)からの依頼で、野菜の苗も育てています。

「夏は遮光カーテンをしても暑いので、休憩を多めにしています。1年前にクーラー付きの休憩室を作りましたが、狭いので…。今は、暑さに強い方が集まっておられますね(笑)」。いつ、何を作るのかやどの時期にどこの市場へ出荷するかは、経験の長い木本さんに相談して決めているそうです。

育てた苗や鉢は、京都生花市場、大原総合花卉市場のほか委託で大阪へ出荷。久御山・まちの駅クロスピアの「福菜市」や洛西高島屋・ラクセーヌ広場の「らくさいマルシェ」、長岡京市役所の「ほっこりんぐ」などにも出店しています。

出荷を待つ色とりどりの花バザーやフリーマーケットでも販売

花作りを続ける、広げる

大山さんは「草のたね」に関わるまで、生活介護の世界で20年仕事をしていましたが、花作りはまったく初めてでした。木本さんに教えてもらいながら、市場では、流行や新しい品種など花作りの情報を収集し、講習会へも積極的に参加しています。水だけで育つハイドロカルチャーや苔玉作りにも挑戦。木工好きな大山さんは、杉板でプランターや器も作っているそうです。さらに、長岡京市の森林課と連携して、間伐材の有効利用にも取り組んでいます。

木本さんは、「いろいろありながらも今年で4年。事務所(長岡京市)とここ(大原野)の両方では大変なので、こちら専属のスタッフが入れるようになれば。花は年に1回しか作れないので、私が元気なうちに花の作り方を伝えていきたい。いいものを作るというのは難しいところもあるが、皆さんが気持ちよく来てくれて・・・」と話してくれました。

大山さんは「将来はもっといろんな花を植えて、ここを植物園のようにしたい」と言います。草の種ほどある仕事の中からこの仕事を選んだみなさんが、花作りを通して元気で幸せに暮らせるように・・・。今日も大原野のハウスの中で、花も人も少しずつ成長しています。

4年前に「草のたね」を立ち上げた代表の大山さん長年ハウスで花卉生産を続けてきた木本さん

施設案内

草のたね合同会社 就労継続支援B型事業所 草のたね
〒617-0818 京都府長岡京市柴ノ里1-22 光藤ビル3F
TEL/FAX:075-957-6700
URL:http://www.kusanotane.com/
https://www.facebook.com/草のたね-562414883799345/